こちらのレビューは、一部ネタバレを含む可能性がございます。ご注意のうえ閲覧ください。
2025.07.30【銃夢 LastOrder1巻】攻殻機動隊の陰に隠れたSF漫画のもう一つの雄
良いと感じた点・楽しめた点
銃夢、銃夢 LastOrder、銃夢 火星戦記と主人公ガリィを主体とした近未来の世界を描く銃夢3シリーズ。
銃夢 火星戦記は現在連載中である。
SF漫画ではあるが、SF漫画の代表とも言える攻殻機動隊より主人公を始めとした登場人物の人物描写や背景がより深く豊かに描かれている。
登場人物の背景描写や登場人物同士のやりとり、バトルアクションシーンが多めで躍動的、情緒的な表現が多く、攻殻機動隊と比べて世界観は理屈っぽくなく直感的。
銃夢シリーズの本来のストーリーは、ある日、空中都市ザレムの下に広がるスラム、クズ鉄町の廃棄場で頭部以外は破壊されたガリィを医師のイドが拾い、ガリィを修理治療して名前をガリィと名付けた所から始まり、本来の名前も過去の記憶も忘れているガリィ生誕の謎や体と本能で覚えている機甲術を通して自分自身の存在意義をガリィという主人公が見出していく物語。
3シリーズを読み進めるといずれかのキャラクターには感情移入が出来ると思われる。
悪いと感じた点・疑問に感じたことなど
作品そのものは人の好みは別として特に異議はないものの、作者が気難しい性格で時々出版サイト側と揉めて移籍したり(例えばSFならではの残酷な表現をする上で出版社側と作者側の表現への要求とこだわりが衝突するなど)、作品の進捗が遅筆ゆえに連載テンポと単行本になるまでに非常に時間が掛かったりと、まだ完結していない銃夢 火星戦記の連載を読んだり単行本を待つ読者側には忍耐が要求される。
また、長い連載で銃夢の初版からはかなり時間が経っている(初めの銃夢連載開始は1991年)ので紙媒体、単行本での入手は若干難しいが、各社電子版も用意されている。
他、悪いかどうかは別として30年以上シリーズを続けているので連載初期の絵柄は古く、連載が進むにつれ今風に洗練されて行く。
総評・全体的な感想
作者(木城ゆきと)の気難しさと攻殻機動隊よりもメディア露出が少ないが故に一部の人に熱烈に支持されながらも認知度が低い名作が多いSF漫画の1ジャンルである銃夢シリーズ。
とはいえ、その気難しさも性格が悪いという訳ではなく自身の作品への情熱が故に究極まで一コマ一コマ、登場人物一人一人に命を吹き込む作業を全身全霊で行っていると捉える事も出来る。
その為、自身がこれだと思っていた表現にそぐわない修正の注文が出版社サイトから出てきてしまうと揉める場合がある。
結果、反対で見ると登場人物、キャラクター一人一人が背負った世界の背景が濃く、それぞれが非常に魅力的で主人公(ガリィ)と敵対する相手やライバル(ディスティ・ノヴァやムバディなど)をも感情移入できる世界として完成度の高い作品が多い。
SF漫画好きな人達の間の評価では「攻殻機動隊はデジタルチックで銃夢はアナログチックなSF漫画」と良く言われる。
自分の中の評価では攻殻機動隊の士郎正宗と比較した場合、木城ゆきとは単に気難しい性格で損をしているだけで、作品そのものがどちらが上かは人の好み以外で優劣を付ける事が出来ないと考えている。
その為、気難しく宣伝下手なだけでこの銃夢シリーズを埋もれたままにするのは非常に惜しく悔やまれるので取り上げた。