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久しぶりの再読。猫が主人公で人間は脇役のミステリー

5.0 78
  • 総合: 5.0点
  • わかりやすさ: 5.0点
  • 文章力: 5.0点
  • ストーリー: 5.0点
  • キャラクター: 5.0点
  • 世界観: 5.0点
  • 演出: 5.0点

良いと感じた点・楽しめた点

私がこの作品をいままで2回読了しています。最初に読了したのは2000年前後だったかもしれません。きっかけは母が見つけてきて勧めてくれました。元々猫派で赤川次郎の「三毛猫ホームズ」シリーズとか、「アブサン」など、いろいろな「猫がテーマの本」をよく見つけてきては読ませてくれていたのです。

この作品はだいぶお気に入りなので、どこがいいかというと大半が気に入っています。主人公のフランシスはすごく魅力的だし、ほぼ冒頭から出てきてだいたいずっといっしょの青髭も好きです。青髭はショッキングな容貌の猫かもしれませんが、すごく「いい奴」です。脇を固めてくれるタイプで、注意していないと青髭もすごい活躍と貢献をしているのに見落としてしまうので、再読時には青髭によく気をつけて読んだのですが、本当に相棒のフランシスのためによく働く(!?)猫で、「なんていい奴なんだ青髭……!」と感激してました。

ディープ・パープルも、ちょっとというか、だいぶとっつきにくいおじいちゃん猫で、作中でフランシスがディープ・パープルと出会った後に見る凄惨な悪夢の印象がすごく残りがちですが、作中では描かれていませんが、青髭は知っていて見ていたであろう、ディープ・パープルとその缶切り屋のハードな郵便屋さんとの生活がすごく気になりました。

それから、真夜中のクラウダンドゥス教の猫集会をのぞき見したのがみつかった後の逃亡や、地下の研究室からだったかな? コングとヘルマン&ヘルマンにみつかり、雨の中追い回されて必死に逃げ惑ったりなどの、スピード感のある描写は、小説なのにアニメ映画を見ているかのような描き方ですごく引き込まれるし、天窓からおっこちて出会った美しいロシアンブルーの「フェリシタス」との静かで知的な会話も印象に残ります。パスカルというパソコンを使える猫との友情もしっかり描かれていて非現実感なく物語に入りこめていけます。

私がいちばん好きなのは、青髭も好きですが、地下墓地にいるよき墓守の「イェザヤ」という猫でした。独特の環境で独特の生い立ちをしているので、あまり流暢に喋ったりはできず、ふつうの猫らしい感情表現の方法もほとんど未獲得、という風変わりなキャラクターなので、インパクトはあってもあまり目立たないキャラクターですが、ラストでの青髭がイェザヤの新しい生活の世話を焼いてくれるくだりとか、とてもハートフルで素敵だと思います。

また、主人公の猫のフランシスの「若くてちょっと生意気で理屈屋の雄猫」ということ以外は、作中で猫種や毛色や目の色など外見についての描写がないという設定もよかったと思います。当時私も猫を飼っていましたし、飼っている猫を思い浮かべてフランシスの活躍を読めたりもできるので、小説ならではの良いアイデアだと思いました。あ、でもよく思い返してみるとたしか一か所ぐらいに「かわいらしい顔」のように言われているところがあった気もします(コングかヘルマン&ヘルマンの煽りだった気も。ちがったらごめんなさい)。フランシスは子猫ではなくいちおう大人の猫なのですが、大人と言ってもだいぶ若い部類の猫なんだなと思いました。

悪いと感じた点・疑問に感じたことなど

この作品は母も読んだのかは忘れましたが、なかなか衝撃的な内容でわりとスプラッタというかグロテスクな描写もあるので、「猫小説でこのディテールはアリなのでしょうか?????」と驚きました。

いろんな猫が活き活きと大活躍する作品なので、猫好きにおすすめの小説なのかもしれませんが、猫の連続殺人(猫)が起きて、主人公の猫たちでいろいろな猫に話を聞いたり調べて回り、その事件の真相に近づいていくという構造になっているので、少し読者を選ぶかもしれないとも思いました。実際、ちょっと周りの猫好きの子には「猫好きだから」といった理由だけでは気軽には勧めにくい作品です……。

この作品はランキング上位の人気作で、フランシスシリーズとして他にも刊行されており、アニメや映画になるという話もあったのですが、ずっと後になってインターネットで日本でのこの小説の評判を検索したら「猫がかわいそうで読み続けられなかった」という感想を抱いた人がけっこういらっしゃったようで、私は「創作は創作」と割り切って読めるタイプだったので驚き、「ああ、猫のきもちで感情移入できる人にはたしかにこの内容はつらいかも!」と思いました。

総評・全体的な感想

この作品の再読はわりと最近なのですが、もう1~2か月が経過してしまったので若干うろ覚えになりながら書いていてすみません。前回が20年ぐらい前だったので記憶と比較して読みましたが、だいぶ気に入っていた作品だったので、わりと覚えていて、忘れていたところも読んだらだいたい記憶がよみがえってきて、なぜかホッとしました。さすがに登場猫が多いし、パスカルが持っているデータベースに入っている、ややこしい名前の猫たちの系譜などはさすがに覚えていませんでしたが、イェザヤのことを自分が覚えていたのが嬉しかったです。じつはイェザヤのことは記憶が薄れていたのですが、フランシスが逃げまどったりしている描写を見ているうちに「あれ? ここになんかあったような……地下に……なにかあったような……忘れがたい子がいたような……(※忘れてます)」と記憶がぽろり、ぽろりとよみがえってくる感じがしていたので、本編とは関係ないのですが、昔遊んでいた場所に戻ってきて、そこにあったものを見つけたときのような不思議な気持ちになりました。

「再読なんて後ろ向きな時間を過ごすヒマがあるんだったら、いまの新しい本を読んだほうがいいんじゃない?」

という気の迷いはもちろんあるのですが、たまにはいいと思いました。なお、グスタフやアルヒー、プレテリウス教授やツィーボルト、といった人間キャラも物語進行上の必要があるので最低限だけ出てくるのですが、フランシスの親友としてそれなりに好意的な描写をされているグスタフ以外は、わりと記憶からきれいに抹消されていて、逆に「エンドウ豆!!!!!」のことは覚えていたのも面白かったです。

名セリフ

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