こちらのレビューは、一部ネタバレを含む可能性がございます。ご注意のうえ閲覧ください。
2024.11.04お笑い芸人上島竜兵(ダチョウ俱楽部)の生涯~鬱 という現代病
良いと感じた点・楽しめた点
悪いと感じた点・疑問に感じたことなど
総評・全体的な感想
芸能ニュースで報道されたので、ご存知の方は多いと思いますが、2022年5月11日、ダチョウ俱楽部の竜ちゃん、と呼ばれていたお笑い芸人の上島竜兵さん(本名上島龍平)が永眠しました(享年61歳)。
ですが上島さんは自死という、安らかな永眠とは言えない死を選びました。
今回紹介する「竜ちゃんのばかやろう」は、上島竜兵さんに長年連れそった妻であり、女性お笑い芸人でもある上島光さん(芸名広川光)が、上島竜兵さんへの深い愛をこめて書いた回想録です。
上島さんの訃報が、芸能ニュースで報道された数日後、知人がぽつりと言いました。
テレビを見ていたら上島竜兵さんが出てきて、なんだか上島さんが急に老けたような気がした。その時は上島さんも齢を取ったからかな?としか思わなかったけど…
けれど上島さんの妻の光さんは、視聴者よりも敏感に上島さんの異変を感じていたようです。2022年5月8日、上島さんが出演した番組「ドリフに大挑戦スペシャル」(2022年4月10日収録、フジテレビ放映)を見た光さんは、まったく生気のない上島さんの表情を見て、これはヤバい!と直感的に思ったそうです。
その時光さんは上島さんの心が、砕けそうになっているのをはっきり確信したそうです。
翌日2022年5月9日の上島さんは「ドリフに大挑戦スペシャル」で見た印象通り元気がなく、じっと黙りこむことが多くまるで心を閉ざし、ひとりだけの世界に引きこもっているように見えたそうです。
大丈夫?何か不安なことあるの?と言葉をかけても、反応はなかったそうです。
翌日2022年5月10日の朝、元気がない様子でリビングのソファにいた上島さんに、光さんが声をかけても曖昧な返事を返しただけで、自室に入ってしまったそうです。
上島さんが好きな北海道生ラーメン味噌味を作ると、自室から出てきてくれたのですが、糖尿病にかかっていた上島さんの健康管理のため、かりんとうを食べようとしていたのを注意すると上島さんは、じゃいらないわ!と怒ってかりんとうを投げ、味噌ラーメンも少し残したそうです。
その後上島さんは後輩芸人を誘って、ZOOMでの飲み会を考えていたようですが、スケジュールの都合で誰も集まらず、飲み会はそのまま流れてしまいました。それが上島さんの寂しさや孤独感を強めたのかもしれない…と光さんは推測し、誘われた後輩芸人もあの時飲み会をしていれば…と後悔したそうです。
もう死んじゃいたい…
そんな言葉が上島さんの口から出たのは、10日の夜のこと。
今にも泣き出しそうな虚ろな表情で、上島さんはそう言ったそうです。
コロナ禍で仕事が減って、ストレス発散の場でもあった芸人仲間との飲み会も、自由に出来なくなった上島さんは、睡眠導入剤とお酒をいっしょに飲んで、正体を失って眠るという不健康な生活を送っていたそうです。
そんな上島さんに光さんが病院に行こうと言っても、病院嫌いの上島さんは拒否するだけ。
死んじゃいたい…
そう言いながら自室に入った上島さんを見て、竜ちゃんをひとりで寝かせてはいけない、
と感じた光さんは、急いで電気を消し戸締りをしてから、上島さんの自室に向かいました。
上島さんが自室に入ってから数分後…
上島さんの後を追って自室に入ると、上島さんはベッドの上にいなくて、嫌な予感を感じた光さんが見つけたのは、うずくまるような姿をしていた上島さんでした。
竜ちゃん!竜ちゃん!と大声で名前を呼び体を揺すりながら、同時に救急車を手配して、まだ生温かい上島さんを連れて、病院に向かったのですが…助かってほしい!という光さんの虚しく、上島さんは帰らぬ人になりました。
生前の上島さんは「あの世は無」だと信じていたそうです。上島さんの没後に遺品整理をしていた光さんは「俺が死んだら読んでくれ」と書かれたノートを見つけました。
そのノートには…
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人は、この世に生を授けた時より
死に向かって歩いてる
「生きがい」とは「生きるための害」なのではないか?
世界か?
「無」には、何もそんざいしない。不幸も悲しみも痛みも
苦しみも喜びも全ての物・感情が。
「有」の世界には、全ての物がそんざいする。
「正義」も「悪」も全ての感情や痛みも
快楽も、全てそんざいする(原文のまま)
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この文章がいつ書かれたのか不明ですが、生前の上島さんはある時期から、希死念慮にとらわれていたのでしょう。
生きる事は時に痛みや苦悩をともなう。
もし自分という存在が、この世から消滅してしまえば、痛みも苦悩も消滅するだろう…
そう思って上島さんは、自死を選んだのでしょう。
その気持ちは私にもよく理解できます。
日本では毎年多くの人が、自死を選んでいるそうです。
その数は年間で約2万人前後、と言われています。
光さんは自死遺族の当事者として、ほんのわずかでも危険なシグナルを察知したら、病院に連れていく、友人知人に相談とかして、心のケアに協力してもらってください、と呼びかけています。
「人生には、まさかの坂がある」上島さんの自死は、光さんにとって最大の「まさか」でした。竜ちゃんのことを考えると、涙と一緒に「腹立たしさ」さえ湧いてくる。どうして何も言わず逝ってしまったのか、コロナ禍で皆に迷惑がかかるのを気にして、家でじっとしていたのに、なんで皆を悲しませることをしてしまったのか…
上島さんを亡くした後、光さんはひとりでお風呂に入ったり、車を運転するときに人知れず泣いていました。虚しくて悔しくて情けなくて…そんなときはひとりで車を運転しながら「竜ちゃんのばかやろう!ばかやろう!!」と、叫んでいました。
本当に悔しくて悲しくて「ばかやろう」と叫んだときの気持ちを、そのまま本のタイトルに決めたそうです。
「竜ちゃんのばかやろう」を書きながら、心が乱れ筆が進まず、パソコンの前に座っているだけの日々を、愛犬モモやすぐに駆けつけてくれる親族や友人に支えられ、光さんは「竜ちゃんのいない現実」の辛さと向き合いながら「死んじゃうって、なんでよ!」と思う一方で、竜ちゃんは「生ききった」のだと思えるようになれたようです。それを美化と言われても、私だけでもそう思っていないと、竜ちゃんが可哀想だからという理由で。
最後に「竜ちゃんのばかやろう」裏表紙に書かれた言葉を紹介して、この文章を締めようと思います。
「う」うえをむいて
「え」えがおでいたら
「し」しあわせが
「ま」まっているかな
「ひ」ひとりじゃない
「か」かんがえすぎない
「る」るんるるん ♪