こちらのレビューは、一部ネタバレを含む可能性がございます。ご注意のうえ閲覧ください。
2022.11.29若いころに読んだ本。定期的に再読する価値があるかも
良いと感じた点・楽しめた点
私は超不勉強なので、エーリッヒ・フロムの本は邦訳したものをたった3冊しか読んでないのですが(「悪について」→「自由からの逃走」→「愛するということ」)、どれも気に入っていて、最初に読んだこの「悪について」がもっともお気に入りです。
ただ、読むのにはすごく骨を折っていて、数ページ読むのに数日かかったり、すごく時間をかけて苦労して読んでいました。そうまでしても「読む価値がある!」と思える本に自力でたどり着いてそう感じられたこと自体が人生の財産になっています。すすめられて読むのももちろんいいのですが、自分で知りたいことがあって紆余曲折しながらこの本にたどり着いて、自分の意志で手に取って読んで、気に入ることができたということが自分の力を信じることのできる第一歩になって、それ自体がすごく良い経験になったので、あまり積極的に人に勧めないでいますが、本当はめちゃくちゃおすすめしたい本です。
悪いと感じた点・疑問に感じたことなど
これは私の不勉強だけが悪いのですが、いろいろな「悪」について取り上げる過程でヒットラーやスターリンなどの歴史上の人物や出来事が登場してきて、でも一つ一つ調べながら読むと膨大な時間がかかってしまうので、すごく気になったことは調べたりもしましたが、よくわからないまま読み進めていた部分が多々あったと思います。
「悪について」は、私が積極的に本を読むようになった初めのころに手に取った本で、ふだん読書しない人がいきなり読むのには「知っている前提で進める話」という要素を多々含むこの本は若干ハードルが高かったと感じました。あとでいろいろ知識を習得したら、また戻ってきて読み直すと、前回はわからなかった部分がひらけて見えていいと思います。
それと、この本の邦題は「悪について」でちょっとおどろおどろしい暗いデザインの表紙になっていますが、元のタイトルは「THE HEART OF MAN: Its Genius for Good and Evil」というのだそうです。直訳だと「人の心:善悪の天才」とかでしょうか。興味本位で手に取れるようなちょっと刺激的な意訳もいいのかもしれませんが、私は原題に近いタイトルでも良かったんじゃないのかなと思いました。少なくとも人に勧めるときにちょっとオカルトっぽい雰囲気を感じられて、引かれそうだなあ、という抵抗感をおぼえました。いい本なのに……
総評・全体的な感想
私がエーリッヒ・フロムのこの本にたどり着いたのは、はや数十年前です……。社会生活にチャレンジしてみたけど挫折してニート状態になっていたときに「もうどうしよう!!」ってなってて、そんなときに読みました。会社での仕事はともかく人間とのやり取りがぜんぜんうまくできなくて、元々人間関係の構築にはまったく自信がなくて、それでも勇気を振り絞って超がんばって、そのうえでの挫折だったので、「なんでなの!!」「なんでうまくいかなかったの!!!」「なにがわるかったの!!!!」という嘆きで日々胸がいっぱいで、収入がないので玄米で薄いおかゆ炊いたりカップめんを啜ったりして、社会心理学の初心者向けの本をむさぼり読んで、当時はまだ今ほどコンサルタントやキュレーターといった学者というよりは商人というポジションの人たちが最終的には自分のビジネスに引き寄せるための窓口としての本をたくさん出していて、それが書店の入り口に平積みにされているという環境でもなかった(?)ので、私には手を引いて導いて行ってくれる特定の人物は身近にはいなかったのですが、最初から「学術文庫」というカテゴリから素直な入りかたができて、運よくいい感じの選択ができたのか、徐々にこの本に近づいて行けたようで、この本を読み始めたときには「あああああ、これだ、私に必要だったのはこの本だ!」ととても感激したのを今でも覚えています。
ちょっと表紙は怖いのですが、どんな人間でもいいところと悪いところがあって、自分によくない言動をしてしまうこともあれば、周りの人によくない言動をしてしまうこともあって、それを意識的にするのであれば仕方がないですが、無意識にやっていて、よくないことを繰り返していることを自覚できなくて、周囲の人も本人まで損をしているとしたら、すごくもったいないなと思うので、よりよく生きるために「悪について」知ることは、きっと、この先の人生の財産になると思います。