reviewレビュー・口コミ

こちらのレビューは、一部ネタバレを含む可能性がございます。ご注意のうえ閲覧ください。

子ども時代に読んだ「我利馬(ガリバー)の船出」。数十年ぶりの再読で、どのくらい記憶は維持されている?

5.0 88
  • 総合: 5.0点
  • わかりやすさ: 3.5点
  • 文章力: 3.5点
  • ストーリー: 5.0点
  • キャラクター: 5.0点
  • 世界観: 4.5点
  • 演出: 4.5点

良いと感じた点・楽しめた点

私が15歳くらいのときに、親が図書館からたくさん灰谷健次郎を借りてきてくれた時期がありました。そのときに読んで印象に残っていた作品の再読です。当時私が読んでいたのは、ヤドカリの表紙の本だったと思うので、理論社の本だと思います。

結論から言うと、読んでよかったです。

子どもの頃好きだった作品を、大人になってから再読すると「思ったより面白くなかった……」「どこが面白かったんだろう……」とがっかりすることがありますが、こちらはいまでも記憶に残っていたり、記憶が消えてしまっていたりする部分も含めて当時と比べながら楽しむことができました。

再読しようとした経緯は忘れましたが、タイトルと若干の内容はずっと覚えていました。再読しようと思い立ってから、元々通読済みの作品なのにあんまり内容を思い出せないので、インターネットであらすじを調べてみると、ぜんぜん覚えていませんでした。わりと記憶力には自信のあるほうですが、ほとんど思い出さずに数十年放置していると忘れるということがよくわかりました。ということは、いつまでも覚えているもののことは、無意識のうちに普段から記憶を反芻して再定着させているのかもしれませんね。

再読前にあらすじを確認してみると、私が実際に覚えていたのは、「作品タイトル」「女の子が出てきてかわいかった」「その女の子の発音が鼻濁音で、主人公の名前を呼ぶときにも鼻濁音で鈴がころころするようなかわいい声だった」ということだけでした。

主人公はどんな性格だったっけ? と思い返してみましたが、おどろくほど一切記憶に残っていませんでした。すごく騒ぐ活発なタイプだったっけ? 寡黙なヒーローだったっけ? セリフはなにか覚えていない? あれ……? まったく覚えていない……

「私、女の子のことしか覚えていないんだ……!」

と思いながら読んでみると、次々に記憶がよみがえってきました。そうだ、そうそう、そうでした!「言われただけでは思い出せないけど、見たら思い出す」そういうことありますよね。女の子のことは名前も忘れていましたが、ネイちゃんという名前でした。たしかにそうだったかも。まあとにかくこの作品は前半は男の世界なので、女性の読者はついていけない気味の部分があるのですが、後半からはやっと自分でも理解できる女の子のキャラクターが出てきて、しかもやることなすことかわいいので、やっぱり読んでよかったです。かわいいだけではなく、賢くてやさしいし、ここぞというときに大好きな我利馬(ガリバー)のために勇気を出して頑張れるし、ラストの大活躍はすばらしいと思います。私の中ではほとんど「ネイ」が主人公のようです。

悪いと感じた点・疑問に感じたことなど

私がこの作品を最初に読んだときは、当時ほぼ同世代の設定だった主人公の我利馬(ガリバー)の生い立ちと、そこから形成される人格と、興味関心(独立のための冒険の旅に出ることやそのためのヨットの自作)にだいぶギャップがあったので、共感や感情移入がものすごくしづらかった、そのせいで記憶に残すことが難しかった、ということがわかりました。

再読した今回は、私も大人になっていろいろ経験した? ので、主人公の我利馬(ガリバー)とはかなり異なった生い立ちをしていても、なんとなく主人公の気持ちや心の動きを自分なりの理解力で追えるようになっていました。でも、いまから主人公と同じ境遇になったときにヨットを自力で設計・建造して船出しよう! という気持ちがわかるか、共感できるかというと、相当むずかしいと感じました。

でも、思い返せばいまは私も独り暮らしをしていて、一人暮らしを始めるときには当時一緒に住んでいた家族を自分の判断でその家に置いていく形で、ひとりで飛び出てきたので、その時のことを思うとちょっとわかる気になれるかもしれません。その時は、家族を捨てるわけではないのですが、いまの生活から抜け出して一人になりたくてたまらなかったので、頑張って貯金をして、残される家族がちょっとの間なら食いつなげるだけの家賃とかも渡して、それがあったからパッと出られたのかもしれません。てことは、我利馬(ガリバー)が自力で勉強して、仲間と船を組み上げることで、自分の力に自信がついたからこそ、さらに自分の力を試しに外の世界に飛び出すという決断ができたのかもしれませんね。もしヨットを作りあげて自信を獲得するところまでたどりつかないうちに、たまたま誰かから既成のいい船を与えられるようなことが起きていたら、船出するという決断はできなかったのかもしれません。

総評・全体的な感想

今回「我利馬(ガリバー)の船出」のほかにも数冊再読していましたが、前回(だいたい10代の頃)読んだときにはどの本も2~3週間かかって読んでいた記憶があるのに、どの本も2日ほどで読んでしまったのが、ちょっとあっけない感はありつつも、とにかく「ネイ」ちゃんがかわいいので個人的に100点です。

この作品は前半に主人公が家出してからおっさんと出会いつつヨットを建造して、中盤で旅に出たはいいが連続でとんでもなくひどい目に遭いつづけ、死が常にそこにあるヒリヒリ感を味わいつづけ、後半でネイのいる村にたどり着いて生活が一変するので、各パートでぜんぜん景色が違うので、前半が良かった読者は後半が退屈に感じるかもしれません。私は前半はひたすら想像もしていなかった世界の連続に圧倒され続けていて後半からやっとほっとして読めたタイプなので、途中で投げないでちゃんと読んでよかったなと思ってます。置いてきた家族のことは忘れたわけじゃなくても、自分の人生は自分の人生なんだから、自分の人生を生きていいのだし、勇気を出して冒険をしたら、親友に出会えるということもあるということなのかな。と思いました。

一方で、読み終わってからも興味深く謎のまま残ってしまったことがありました。ずっと覚えていた部分や、読んだら思い出した部分は多々あったのですが、主人公の我利馬(ガリバー)の親友で、物語のなかでどう考えても超重要人物となるホームレスの「おっさん」のことを、私がまったく覚えていなかったのが、印象的でした。過去の自分に問いたいですが、どうしてこれだけのインパクトの独特のオーラを持つ好人物をおぼえてないんでしょうか……? 再読後も、それだけは、わかりませんでした……。いえ、唯一、我利馬(ガリバー)がおっさんの生き方にハッとしておっさんに興味を持つきっかけとなった事件(のらくらいい加減に暮らしているホームレスのじいさんかと思っていたら、嘔吐した人物に駆け寄りなりふりかまわず介抱するシーン)のことはさすがに覚えていましたが、それ以外はすべて忘れていて、読んでも思い出せませんでした……。いまだったら「おっさんサイコー!」って思って読んでいるのに、最初に読んだときの記憶には、なんらそういった印象のかけらも残っていない自分が、残念でした。ホームレスという設定に先入観があったのか? とか、おじいさんだから感情移入のしようがなかったのか? とか、もしかしてつまらないから適当に読み飛ばしていてそもそも目を通していなかった? といろいろ考えてみましたが、我利馬(ガリバー)がナイフで不意に怪我をしてしまうシーンなどもところどころ覚えていたので、しっかり通読はしているはずなんですよね。そうなのかあ……、覚えてないのかあ……、と思いました。

なお、「おっさん」のことは驚くほど記憶に残っていませんでしたが、ネイのおじいちゃん(クチュ老人)のことは比較的覚えているようでした。こちらもかなりの好人物で、「おっさん」も「クチュ老人」も子ども時代に周囲にこんな立派な大人がいてくれたら、確実にその子の人格形成に大きないい影響を与え続けてくれるであろう人物として描かれているのですが、なんで出番が比較的少ない穏やかな性格のクチュ老人のことは覚えていて、おっさんのことは覚えてないのでしょうね……。また、主人公の我利馬(ガリバー)に対する印象は、前回よりはだいぶ理解ができるようになっていましたが、とくに好きでも嫌いでもありませんでした。

ネイちゃんがかわいい! あいかわらずかわいい!

以上です。

名セリフ

このレビューが参考になったら、クリックして応援しましょう!

reviewレビュー・口コミ

レビューがみつかりません。

review新着レビュー・口コミ

READ MORE